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生計を一にする親族に対する費用:所得の分散

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確定申告期が今週より始まる。

前々回のコラムより確定申告にちなんだ所得税関連のコラムをアップしているが、今回はシリーズ第3弾「生計を一にする親族への支払い」についてである。

仕事柄「どうすれば税金を安くできますか、できれば合法的に」という質問をよくされるのだが、総論的な回答ではあるが「所得を分散すること」とお答えすることにしている。

なぜ、所得を分散すると税金が安くなるのかといえば、日本では累進課税制度がとられているからに他ならない。

すなわち、1000万円を夫一人で稼ぐよりも夫婦二人で500万円ずつ稼いだ方が、トータルの税金は安く済むのだ。

賢い納税者の方なら、「では一人で稼いだ分から半分を妻や子供に給与ないし報酬として支払って分散させよう」と思うだろう。

しかしながら国は所得税法第56条において「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が。

その居住者の営む事業所得等に従事した等により対価の支払いを受ける場合には、その対価に相当する金額は所得の計算上必要経費に算入しないものとする(一部省略)」とし、家族等への所得の分散を未然防止している。

興味深い判例を2つ紹介する。

最高裁平成16年11月2日【弁護士夫婦事件】であるが、弁護士である夫が同じく弁護士である妻に業務の報酬を支払い、当該報酬を損金算入したことにつき、所轄税務署に更正処分をされ、それに納税者が異議申し立てをした事件が一つ。

もう一つは、最高裁平成17年7月5日判決【妻税理士事件】で、弁護士である夫が税務顧問料として税理士である妻に支払った税務顧問料を損金算入していたことにつき、所轄税務署長に更正処分され、納税者が異議申し立てをした事件である。

結論としては、両事件とも納税者敗訴となった。

上記2つの事件の共通点は、事業者の事業専従者ではなく、独立した事業者であること。

ただ、両判決共に「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者と別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはできない」としており、「同上があえて“生計を一にする配偶者その他の親族”と要件を定めているのは、適用対象を明確にし、簡便な税務処理を可能にするため」であるともしている。

よって、「生計を一にしている」配偶者その他親族に対価を支払う場合については、基本的に全て損金とすることはできない。

では、「生計を一にする」とはどういう状態をいうのだろうか。

それは所得税基本通達2-47にあるので詳細はそちらをご確認していただきたいが、要約すると「同じ釜の飯を食べている者」である。

仮に別居している離婚間近の夫婦についても、夫の収入で妻の生活の一部を支えているような状況が客観視される場合には生計を一とみなされる。

なので、収入は別であっても同じ場所に住んでいたり、別の場所であっても収入は同じであったりしたら、所得の分散は不可能と言えるだろう。

では、どうしたら所得の分散が可能になるのか、それは会社を立ち上げることである。

上記の判例においても、妻が弁護士法人や税理士法人の社員であれば、所得税法56条の適用はなかったと思われる。

ただ、明らかに節税目的とみなされる法人への所得の分散は、その行為自体を否認されるケースもある(法人税法132条)。

なので、所得の分散は個別事情に注意を払いながら、慎重に行う必要がある。

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