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報酬か給与か

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先日は必要経費について書かせていただいたが、個人の確定申告期が迫りつつあるということで、今回も所得税法の話として「報酬か給与か」について書かせていただく。

「報酬か給与か」を私が最も懸念する機会としては、会社を訪問するといつもおられる社員への支払いが外注費(報酬)となっている時である。

「あの人って外注扱いなの?」と聞くと「ウチ専属で来てもらっているんですよ」との返答。「契約形態は?」「あの人確定申告しているのかな?」「勤務時間って決まってるの?」などの質問を浴びせかけると歯切れが悪くなる、というケースが多い。
「社員への支払いを外注扱いにすると消費税が安くなる」という、当人たちにとっては都市伝説的な噂が業界によっては常識化しているようだ。
インボイス制度が導入され、今後は減っていくと思われるが、このようなケースは、建設業、自動車整備業、接待を伴う飲食業などに多い。
では、両者の線引きはどこにあるのか。判例(人材派遣業事件:東京高裁h25.10.23)をもとに整理していく。

判例の内容を見ると、原告たる納税者は、講師派遣、家庭教師派遣業を営む会社で、使用する講師、家庭教師に対し支払った金員を「報酬」として処理し、また役務の提供に対する対価として消費税も仕入税額控除をしていた。
ところが税務調査時に所轄税務署長よりこのケースでは「給与」が妥当と認定され、源泉徴収義務違反、及びそれに伴う消費税の仕入税額控除の否認をもされることになった。
納税者はそれを不服として裁判を起こしたというわけだが、裁判では以下の点を根拠として納税者を敗訴にしている。
因みに、事業所得か給与所得かを争った判例は過去にもあり(弁護士顧問料事件:最高裁S56.4.24)、そこでは以下の2点が両所得の区分ポイントとされたのであるが、その判例を参考にしたうえでの判決となっている。

・独立性要件(これが強いと事業所得):報酬であった場合、報酬を受けるサイドからするとそれは事業所得となるが、事業所得の定義として国税庁の個別通達によると、「自己の計算において独立して行われる事業から生ずる所得」とされているが、この事件においては、講演料や家庭教師の派遣料は派遣会社が決定しており、かつ講師ないし家庭教師が業務上のトラブルを起こした場合、原告たる会社がその責任を負うようになっていた。
そのために講師や家庭教師に独立性は乏しい、と判断されている。

・従属性要件(これが強いと給与所得):定時勤務の社員やパートのように、仕事場所や仕事内容について一定の制約を受けるものではないため従属性は乏しいが、同様に従属性の乏しい国会議員の歳費や会社の役員報酬なども給与所得であることを鑑みると、給与所得認定を行うにあたり従属性は特に重要視するものではない、と判断されている。

要するに、この判例では「独立性」という視点で税務署の給与認定を支持している。
過去の判例では従属性も重要視されていたが、この判例では特に重要ではないとまで言っている。
基本的に、給与か報酬かの判断は、会社と使用者との契約が雇用契約か業務請負契約かによって行われるが、税務においては形式的な契約形態よりは経済的実質を重んじられるため、特に注意が必要である。
判断基準として一言でまとめると「労務の提供が自己の計算と危険によってなされているのか、他人の指揮監督ないし組織の支配(空間的、時間的拘束)に服してなされているのか」である。
事例判定に迷ったときは、所轄の税務署に相談に行き、相談した事実を記録として残しておいてもらうのが最上の策かもしれない。

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