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パラダイムシフト?事実認定は慎重かつ冷静に:「自然人は常に利益目的で生きているわけではない」が崩された事案

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法人と法人役員間のハナシである。

一般的に法人が資金不足になった場合、銀行か役員個人から資金調達をする。

会社サイドでは、対銀行にしても対役員にしても当然のことながら金利を支払うわけであるが、役員個人に対しては必ずしも金利を支払う必要なないとされる。理由は「自然人たる個人は常に損得を前提として生きているわけではないから」。

逆に、会社から資金調達した場合には、必ず(災害疾病等やむを得ない場合を除く)金利を計上しなければならない。理由は「会社は常に利益獲得を目的として運営されているから(会社法第5条)」。

ただ、「この認識を当たり前とはせず、まずは冷静に事実認定をしなければ」と感じた国税不服審判所の採決があった。

同族会社の役員とその親族が当該同族会社に81億6000万円を貸し付け、金利を貸出約定平均金利(0.791~0.885%)の100~500分の一の金利で貸し付けていた事案で、税務署長が所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認等)の適用をして、「債権者の所得を不当に引き下げ、所得税額を減少させる行為であり、租税回避以外に合理的理由が見当たらない」として同債権者に通常の貸出金利との差額につき更正処分を行った。

この事案について、大阪国税不服審判所が税務署長の処分を支持したということである。

私がこの判決を読んで最初に違和感を持ったのは、前述した「自然人は経済的合理性だけで意思決定をするわけではない」という前提が考慮されていない点であった。

ただ、読み進めると同役員等が同貸付をする際に行った行為について触れられていた。

約81億円の資金源は、以前に同社が発行していた社債を役員等が引き受けて振り込んでいたお金で、役員等は社債利息として会社から利息を受け取っていたが、同利息に対しての税制改正が平成25年にあり、源泉分離課税で済んでいたのが平成28年以降に総合課税されることになったことを契機にして、社債を償還して一旦返金を受けたうえで、81億円を同社に低利で貸し付けたという経緯があった点である。いわば1回目の租税回避行為(違法ではない)といえる。

この点が決め手となり、同役員の非常識な低利での貸し付けについては租税回避行為と断定され、税務署長の更正処分が支持されることになった。

同役員も確かに自然人ではあるが、過去の経緯から「経済的合理性を重視して意思決定する人」と認定されてしまったようだ。なので、低利での貸し付けを租税回避行為と認定されてしまった、すなわち伝家の宝刀たる所得税法157条を適用されてしまったということだ。

この経緯の裏には税理士の影を感じるが、異常に低い貸し出し利率も含めてリスクを役員に説明できていたのであろうか。にしても81億円は重い!

わが身を振り返ってもヒヤリとさせられる事案である。

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