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「通達の位置づけ」:タワマン節税訴訟と株式節税訴訟からみる通達の扱い方

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年度末が近づき、政治の世界では、次年度予算案をめぐる与野党の攻防が毎日のように繰り広げられている。自民党は財務省の意向を受けて財源を国民に還元しようとせず、その対応ぶりが顕著に表れている。果たしてどのような結末を迎えるのか、非常に興味深く報道を見守っている。

さて、令和7年1月17日、東京地裁において税務訴訟に関する興味深い判決が下された。
その内容は、財産評価基本通達総則6項(この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。)の適用が適法か否かを問うものだった。

詳細については各種ホームページ等で確認いただきたいが、結果としては税務署が敗訴し、通達に従って財産を評価し相続税を申告した納税者が勝訴した。争点は、通達による評価が相続税法における「相続時の時価」を適切に表現しているか否かであったが、基本的には「通達の優先性」が認められた。

判決の理由としては、通達の規定通りに計算・申告したにもかかわらず、個別の税額の大小に応じて総則6項を適用することを認めれば、租税法の一般原則である平等原則に反すると判断されたためである。

通達による評価が争点となった裁判として、令和4年4月19日の、いわゆる「タワマン節税」に関する最高裁判決がある。
この判決では税務署が勝訴し、納税者が敗訴している。今回の判決においても、この最高裁判決が引用されているが、なぜ結果が異なったのか。

ポイントは、相続税対策が財産評価にどのように結びついているかである。

令和4年の最高裁判決では、納税者は相続税対策として、多額(約10億円)の借り入れを行い、タワーマンション(約13億円)を購入することで、課税価格の合計額を基礎控除以下とし、相続税額を0円とする申告を行った。一方、今回の事案では、被相続人(上場企業A社の創業者)を引受人とする増資をB社(A社の筆頭株主)にて行い、株式の保有割合を50%以下に引き下げた結果、類似業種比準価格方式を適用できるようになり、B社の株価が結果として約半額に引き下げられた。その株価を基に相続税の申告が行われた。

前者では、タワーマンションを借入金で購入する行為自体が、タワーマンションの実勢価格と通達による評価額の乖離を前提としたものであり、「行為を行った者と行っていない者の間に不公平が生じる」として、平等原則に反すると判断された。

一方、後者では、現金を増資引き受けにより株式に変えた行為自体が直接的に評価額を引き下げたわけではなく、通達に定められた評価方法を選択した結果として株価が下がったに過ぎない。このため、その行為自体は平等原則に反しないと判断された。

裁判所の「通達」に関する見解については、令和4年の最高裁判決において、
「評価通達は相続税法における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」
とされている。このため、通達自体が国民の権利義務を直接定めるものではないものの、税務行政の効率化と公平性の観点から、その存在自体は違憲とはされていない。

今回の令和7年の判決については、すでに税務署が控訴しており、最終的な結論はまだ出ていない。

103万円の壁の行方も気になるが、税理士としては「通達の正しい扱い方」についても、大いに注目していく必要があるだろう。

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